「まさか大会を勝ち上がる者がおるとはな……」
 リヒテンラーデ総合武術大会は必ず地獄の壁が優勝すると思っていたリヒテンラーデ公は、まじかる☆魔物ハンターの優勝をあまり快く思っていなかった。
「まあ、優勝は優勝だ。優勝賞金の10000オーラムはくれてやる」
「ありがたくいただいておきます……と言いたい所ですが、辞退させていただきます」
 渋々ながらも優勝賞金を出そうとするリヒテンラーデ公だったが、何とサユリは優勝賞金を貰わないと申し出たのだった。
「ほう、金額が不服だとでも言うのかね?」
「いいえ」
「では、他に望むものがあるのか?」
「いいえ。何もございません。サユリは何も望んではおりません」
「サユリ……!?」
 聞き覚えのある名前に、リヒテンラーデ公はハッとした。
「まさか、お前は金髪の小僧の……」
「はい。サユリはローエングラム侯ラインハルトの妹です!」
「な、何と! 優勝したまじかる☆魔物ハンターのまじかる☆さゆりんの正体は、あのローエングラム侯の妹だったぁ!」
 サユリが正体を表わしたことに、会場全体が驚きの声をあげたのだった。あの美しく華麗な魔術士の正体があの金髪の小僧の妹だったのか、何の目的で武術大会に参加したのだなどの言葉が、会場全体に飛び交ったのだった。
「過日、次期リヒテンラーデ公とのご婚約のお話を承り、そのお返事をさせていただきたく、サユリはリヒテンラーデを訪れました。結論から申し上げますと、せっかくですが今回のお話は丁重にお断りさせていただきます。
 もっとも、そう申しましても、公爵閣下は納得為さらないでしょう。ですから、サユリはこの武術大会に参加しました。この大会の優勝を持って婚約の破談を公爵閣下に承諾してもらう為に!」
「……。フン、いいだろう。金髪の小僧の妹を嫁として迎え、金髪の小僧を手玉に取ろうと思っていたが、儂の考えが甘かったようだな。
 こんな妹君を嫁として迎えたら、金髪の小僧を手玉に取る所か、逆にリヒテンラーデを金髪の小僧に乗っ取られてしまう所だ。今回の大胆な婚約破談劇、流石は金髪の小僧の妹か」
「その言葉、お褒めの言葉として受け取っておきますわ。マイ、用も済んだことだし帰りましょう」
「うん」
「会場の皆さん、サユリ達のことを応援してくださって、本当にどうもありがとうございました〜〜。それではーーっ!」
 そう最後に会場の観衆に感謝の言葉を投げ掛け、サユリは武術大会の会場を後にしたのだった。
「お、おお〜〜! その美しく可愛らしい顔の奥に秘められた、王者の風格! まじかる☆さゆりん、いいえ! サユリ姫は正に誇り高き皇女! ジーク・カイザーリン・サユリ――!!」
「ジーク・カイザーリン! ジーク・カイザーリン! ジーク・カイザーリン! サユリ〜〜!! ワアアーー!!」
 皇女サユリ萬歳! 会場の観衆は皆、サユリの姿が見えなくなるまで高らかにそう叫び続けたのだった。



SaGa−31「常夏の地グレートアーチ」


「イヤッホー! グレートアーチ最高ーー!!」
 南の熱帯地方に位置する橋状の長い大陸全体を指すグレートアーチ。この常夏の地は古くからリゾート地として親しまれ、世界中から多くの観光客がバカンスを楽しみに訪れている地である。
「まったく、ジュン君はどこに行っても元気がいいわね……」
 グレートアーチの海で子供の様にはしゃぐジュンを見つめながら、カオリはそう呟くのだった。
「え〜い、シオリちゃん!」
「きゃっ、冷たいっ! やりましたねアユさん。お返しです!」
 一方、アユとシオリは互いに水を掛け合いながら無邪気に戯れていたのだった。
(楽しそうね、シオリ。やっぱり、グレートアーチに来て良かったわね……)
 シオリが海で無邪気に遊ぶ様を、カオリは微笑ましく砂浜から見つめていた。魔戦士公アラケスの撃退が叶わず、一人で全ての責任を負うかの如く自分を責め続けていたシオリ。そのシオリの顔にあんな笑顔が戻って本当に良かったと、カオリは心の奥底から思うのだった。
「なんだ、カオリは泳がないのか?」
「まあね。あたしはナユキと一緒に日光浴をしている方が性に合っているわ」
「く〜〜。わたし、ストロベリージャムでパン一斤は余裕だぉ……」
「ははっ。ナユキの方は気持ち良過ぎて寝ているようだけどな」
 そうユウイチは、ナユキの気持ち良さそうな寝顔を見て微笑するのだった。
「そういうユウイチ君こそ、泳ぎもせず、日光浴をする訳でもなく、何しているのよ?」
「この辺りの地域情報誌を読んで、提携を結べそうな会社はないか探しているんだ」
「まったく。グレートアーチに行かないかって提案したのはユウイチ君でしょ? 提案者のあなたが遊ばなくってどうするのよ」
「ははっ。大っぴらに遊びたい所だけど、あのアユの笑顔見ていると、もっともっと自分が頑張らなきゃって思ってしまって、つい遊ぶことよりも仕事のことを考えてしまうんだ」
「まったく。ゾッコンね……」
 そう苦笑するカオリだったが、ユウイチの気持ちが分からない訳ではなかった。自分の愛しい人の笑顔の為に、全力を尽くす。自分がシオリの笑顔の為ならば何でもしてあげたくなる様に、ユウイチもまたアユの為に自分がしてあげられることを最大限に行いたいと思っているのだと。
「ユウイチく〜ん! そんな所でボーっとしていないで、一緒に遊ぼうよ〜〜!!」
「お姉ちゃんもそんな所で日光浴なんかしてないで、一緒に泳ぎましょうよ〜〜!」
「やれやれ、お呼びのようだな」
「そのようね。ほらっ、ナユキ、あなたも寝てないで泳ぎに行くわよ!」
「わっ、カオリ、もう朝ご飯……?」
「ナユキ、寝ぼけていないで、アユ達と一緒に泳ぐぞ!」
 ユウイチは起きたばかりのナユキを半ば強引に海の方まで引っ張って行った。カオリはその様に苦笑しながら、自分も海へと向かうのだった。こうして一向は飽きるまでグレートアーチの海を楽しんだのだった。



「あれっ、ユウイチさん達は?」
 翌朝、宿泊しているホテルにユウイチ、アユ、ナユキの3人の姿がないことにシオリは疑問を抱き、カオリに訊ねたのだった。
「ユウイチ君達? 何でもアケの方にいい材木屋があるって話で、ついさっき出掛けたわよ」
「そっか、ユウイチさん頑張ってるな……」
 自分の愛する人の幸福の為、こんな観光地に来てまで仕事を続けるユウイチ。そのユウイチの姿に尊敬の念を抱くと共に、自分もアビスゲートを閉じる責務を果たさなければならないと、シオリは決心するのだった。
「あれっ? ひょっとしてシオリじゃないか?」
「ユリアン! どうしてここに!?」
 突然自分の前に姿を現したユリアン。その予想だにしない再会に、シオリは驚くのだった。
「うん、実はね……」
 ユリアンは自分がグレートアーチに来た経緯を話した。イゼルローンでのフォルネウスの配下の者による殺人事件。イゼルローン要塞を動かすのに必要なイルカの像を求めてグレートアーチに来たことを。
「そういうシオリはどうしてここに?」
 シオリもまた、ユリアンに経緯を話した。魔戦士公アラケスに挑んだのはいいが返り討ちに遭い、傷心を癒す形でグレートアーチに赴いたことを。
「そっか。僕が側にいれば倒せたかもしれないのに……」
 もし、自分がいれば氷の剣の一振りでアラケスをアビスの深淵へ追いやれたかもしれない。自分が決戦の場にいなかったことに、ユリアンは悔しがるのだった。
「ユリアン君。それは驕りというものよ。確かにあなたは強力な力を秘めているかもしれないけど、例え聖王遺物を持っていたとしても、倒せたかもしれないなんて気持ちで挑める程甘い相手じゃないのよ」
「そうですね。カオリさんの言う通りです」
 実際にアラケスと死闘を繰り広げたカオリの言葉には説得力と重みがあると、ユリアンは自分の軽挙な発言を恥じたのだった。
「お〜い! カオリにシオリ〜〜!!」
 そんな時、ジュンが嬉しそうな顔で駆け付けて来た。
「どうしたのジュン君?」
「二人共聞いて驚け、このグレートアーチには……って、見掛けない顔がいるな?」
「初めまして、ジュンさん。僕はユリアンって言います」
「ユリアンか。確か、シオリの彼氏か誰かだっけ?」
「ちょっと、ジュンさん! 私とユリアンはそんな関係じゃありません!」
 ジュンに彼氏かと言われたシオリは、顔を赤くしながら必死で否定するのだった。
「ははっ、否定する所がかえって怪しいな〜〜」
「もうーっ、そんなこと言うジュンさん、嫌いです!」
「悪い悪い。確かユキトと一緒にイゼルローンに向かって行ったって話だったな。ランスじゃすれ違いで会うのは初めてだな」
「ところでジュン君。何か話したいことがあったみたいだけど?」
 ジュンとユリアンの自己紹介が終わった所で、カオリが話しを戻したのだった。
「ああ。実はさっき小耳に挟んだんだが、どうやらこのグレートアーチのどこかに、かの海賊アッテンボローの財宝が眠っているらしい」
 ジュンの聞いた話では、このグレートアーチは嘗て海賊アッテンボローが活動の拠点にしていた地で、昔からアッテンボローの隠し財宝があるという噂が絶えなかったらしい。
「アッテンボローの財宝……。ジュンさん、詳しい話を聞かせてもらえませんか?」
「いや、詳しい話も何も、オレもそれ以上のことは知らない」
「そうですか……」
「何だか訳アリなようだな?」
「ええ。実は……」
 ユリアンはジュンに、今自分がアッテンボローが盗んだと言われるイルカ像を見付け出す為、グレートアーチを訪れていることを話したのだった。
「そうか……。そりゃ何としてでも見付けなきゃならないな。色々街の人の話を聞けば、何か有力な情報が掴まるかもしれないぜ!」
「そうですね。それが一番の近道になりそうです」
「ジュン君。なかなか冴えてるじゃない」
「みんなで頑張って、イルカ像を見つけましょう!」
 ジュンの提案を皆は快く受け入れ、街での情報収拾が始まったのだった。



「どう、ジュン君。何かいい情報は見つかった?」
「いや。財宝のありか知ってるぜって言う人は何人かいたけど、どうにも信用に値しない情報ばかりだ」
 昼下がり、皆は一度浜辺に集結した。午前中に皆で集めた情報を交換し合ったが、有力な手掛かりは皆無だった。
「ええ。僕も似たようなものでした。どの情報も信憑性の少ないものばかりでして」
「困りましたね。このままだといつまで経ってもフォルネウスを倒すことが出来ません……」
「ようっ、そこの兄ちゃん、嬢ちゃん達。海賊アッテンボローの財宝のありかについて、いいネタ持ってるぜ」
 そんな時だった。一行に声を掛ける者が現れた。声の主は初老の男で、髪は白髪で左足は義足だった。
「……おい、どうする? いかにも胡散臭そうなジイさんだぜ……」
「そうね……。でも一応聞いてみる価値はあるわね。あたしに任せて……」
 ジュンとカオリは小声で相談し、話し合った結果カオリが老人から聞き出すこととなった。
「一つ聞いていいかしら? その財宝の中にイルカ像はある?」
 カオリはいきなり自分達が探している物の名を語った。もし本当に財宝の在り処を知っているなら、即答する筈。ちょっとでも途惑う姿勢を見せたなら、恐らくその情報はガセだろう。カオリは、老人を試す形で質問したのだった。
「ああ、あれか。何でも術の威力を増大させる珍しい一品だと聞いて盗んだんだが、どうやら玄武術しか増大させられないようでよ。生憎俺は蒼龍術しか使えないんで、無用の長物だった。
 ま、お宝としての希少価値はあるかもしれないがな」
(何、この老人……?)
 老人の語り様は、少なくともイルカ像に関しての知識は持っているようだった。しかし、その語り様はまるで自分がイルカ像を盗んだかの様な言い草だった。
「さて、これ以上の情報を知りたかったら、200オーラム払ってもらうぜ。それに財宝の在り処は沢山のトラップが仕掛けられた洞窟で、何の予備知識もなく探索したら命がいくつあっても足りない。
 そこでだ。このハーマン様特製の洞窟探検公式ガイドブックは如何かな? 初級編、中級編、上級編各3000オーラム。更には付属品のアッテンボロー提督の航海日誌が5000オーラム!
 今なら情報料合わせて特別奉仕価格10000オーラムだ! どうだい? グレートアーチの旅を更に楽しむ為買ってみては?」
「……。おい、やっぱり胡散臭いぜ……」
「そうね……」
 自らハーマンと名乗った初老の言動は、財宝の情報をネタに一儲けしようという魂胆が見え見えだった。こんな老人の情報には従わない方がいいと、その場にいる誰もが思ったのだった。



「やっと見付けたぞ、クゾジジイ! よくも俺に嘘の情報を教えやがったな!」
 そんな時、老人に激しい抗議をする男が現れたのだった。
「ポプラン!」
 抗議している男は何と、シオリが野盗に拉致された際、救出してくれたポプランだった。
「おお! 誰かと思えば、ユリアンに、シオリ嬢ちゃん。それにカオリお姉様。いやはや、こんな所でお姉様と再会出来るとは、やはり俺とお姉様は運命の赤い糸で……」
「カオリ、誰だこの男?」
「前に話したでしょ? シオリを助けてくれた……」
と、カオリは思い出したくないような声で、ポプランのことをジュンに語ったのだった。
「ああ、あの女たらしキザ野郎か」
「ん? そういうお前こそ見掛けない顔だな?」
「オレはジュンだ!」
「ジュン……。ああ、そう言えば前にそんな名前聞いたな。確かサユリ姫を守り切れなかったヘタレ男の名前だったかな?」
「誰がヘタレだ!」
「あ!? 初対面の人間を女たらしキザ野郎とか抜かす奴に言われる筋合いはないぜ!」
「何だとっ!?」
「おう! やるか、このっ!」
(ふふっ、ホントに似ているわね……)
 ジュンとポプランが口論している姿を見て、本当に二人は似た者同士だと、カオリは微笑むのだった。
「それで、ポプランさん。どうしてこんな所にいるんです?」
 話題を変え、シオリが訊ねたのだった。
「よくぞ聞いてくれました。不肖このオリベエ=ポプラン、めでたく盗賊から足を洗い、今は世界を駆け巡るトレジャーハンターポプランとして、アッテンボローの財宝を探しにグレートアーチの地に足を踏み入れたのです!」
「……。トレジャーハンターって言えば響きがいいけど、やってることは盗賊とあんまり変わらないんじゃない?」
「いやあ〜〜、流石はカオリお姉様! 厳しいツッコミ! でも、そこにシビれる! 憧れるゥ!」
「……で、その女たらしキザ野郎が俺に何の用だ?」
 このまま受け流されてもいいと思ったが、ハーマンは一応ポプランの抗議を聞いてやることにしたのだった。
「ああ! さっきてめぇに教えられた洞窟に行ってみたんだが、変な罠ばっかりで、宝の一つも見付けられなかったぜ! どうしてくれるんだ!!」
「俺は嘘は言ってないぜ。財宝の在り処は沢山のトラップが仕掛けられた洞窟で、何の予備知識もなく探索したら命がいくつあっても足りないって言っただろ?
 俺は親切にガイドブックまで付けてあげようとしたのに、お前は買わなかった。だから、俺の親切を無視してガイドブックを買わなかったお前が悪い」
「ウルセー! 誰が一冊3000オーラムもするボッタクリな本を買うかよ! このクソジジイ!!」
「アッテンボローの財宝は、総額100000オーラムも下らないんだぜ。どこがボッタクリなもんか! 大体さっきからジジイ、ジジイって、俺はまだ30代だ!!」
「はっ、白髪の30代がどこにいるって言うんだよ! ウソつくのも大概にしとけってんだ!!」
「はいはい。お前との話はこれでおしまい。で、あんた等やけにイルカ像に拘っているみたいだけど、何かワケがあるのか?」
 ハーマンは抗議するポプランを無視して、シオリ達が何故イルカ像を欲しがっているか訊ねたのだった。
「はい。それは魔海候フォルネウスを倒す為です! フォルネウスを倒す為にはイゼルローン要塞を動かさなくてはならないのですが、要塞を動かすのにイルカ像が必要なんです」
 ハーマンの質問に、ユリアンが確固たる意志を示すかの如く答えたのだった。
「ほう、あのイルカ像は伝説のイゼルローン要塞の起動キーみたいなものだったのか。その要塞があれば奴を倒せるかもな……。
 よし、いいだろう。俺に付いて来な! イルカ像の隠し場所まで案内してやるぜ!!」
「えっ!? 情報料とかガイドブックの購入とか、そういうのは?」
「いらん。すべてはフォルネウスを倒す為なら、そんなもの買ってもらう必要はない。とにかく俺に付いて来るんだな!」
 シオリの質問に、ハーマンはそう答えた。こうしてシオリ達はハーマンに引きつられ、イルカ像が隠されている洞窟へと向かって行くのだった。



「久し振りだな、ユキト。過日のブラウンシュバイク男爵反乱の折には、卿には色々と世話になったな」
 久方振りに新無憂宮ノイエ・サンスーシーを訪れたユキトを、ラインハルトは快く迎えたのだった。
「それで、卿に同行している者等は誰だ?」
「はい。僕はエル=ファシル王ケイスケです」
 問い掛けて来たラインハルトに対し、ケイスケは自ら名乗りをあげたのだった。
「ほう。エル=ファシル王は神王教団に殺されたと聞いていたが、生きていたか。それで、エル=ファシル王が余に何用だ?」
「はい。僕は神王教団に敗れ、国を失った。こんなことは国を滅ぼさせてしまった王に言う資格はないかもしれないけど、僕は王国の再興をしようとしている。
 けど、一度敗れた神王教団と再び戦うには、入念の準備が必要だ。それまでの間、ローエングラム候にかくまっていただきたく、こうしてご挨拶に来た次第です」
「いいだろう。かくまってやるだけではなく、王国再興に向けて多大なる支援も行おう」
「えっ!?」
 ラインハルトはケイスケの申し出をあっさりと了承した所か、王国再興に関して支援を行うという旨まで語った。かくまってもらえるだけで十分だと思っていたケイスケは、ラインハルトのあまりの申し出にただただ驚いたのだった。
「王がもし王国の再興など考えていなく、己の身の安全だけしか考えていない男だったならば、余はかくまうなどしなかった。されど、王に王国再興の意志あるならば、余は支援を惜しまぬ」
「はっ。有り難き幸せです」
「もっとも、支援するからにはいくつかの条件がある」
「王国再興にご協力して下さるならば、どのような条件も承ります」
「そうか。余が王に持ち掛ける条件は二つ。一つは、王国再興の折には、我がローエングラムと優先的に交易を行うこと。もう一つは、余をエル=ファシル王と同格のローエングラム王として王自らがお認めになることだ」
「えっ、そんな条件で本当に協力して下さるのですか!?」
 一体どんな条件が出るのだろうと思っていたケイスケは、ラインハルト提案した条件があまりに寛大なことに、驚きを隠せなかった。
「余の言葉に二言はない。どうだ? 飲めるかエル=ファシル王」
「はい。そのようなお約束ならば僕は一向に構いません」
「王は余より位が上なのだ。そんなへりくだった言い方をする必要はない」
「確かにそうかもしれません。ですが、僕が見るにローエングラム候は僕以上の王の器! これは僕自身が貴方様に敬意を示したいから示しているまでです」
 噂には聞く金髪の小僧、本当に噂される程の器量を持ち合わせているのだろうかとケイスケは疑念を抱いていた。しかし、実際ラインハルトと会ってみて噂以上の器量の大きさに、ケイスケはただただ敬服するしかなかった。
「良かったね、お父さん。ラインハルト様が良い人で」
「お父さん? もしや貴方がミスズ姫か」
「はい」
「そうか……。ケイスケ王、部下の者に部屋を用意させる。来るべき時までその部屋を使うが良い」
「はっ、色々と本当にどうもありがとうございます、ローエングラム候」



「ラインハルト様。あれで本当に宜しかったのですか?」
 部下に用意させた部屋にケイスケ達を案内させ、ラインハルトとキルヒアイスの二人しかいない玉座の間。キルヒアイスもラインハルトがあまりに寛大なことに少なからず途惑いを感じ、ラインハルトの真意を問い質そうとした。
「分からぬか、キルヒアイス? エル=ファシル王国は神王教団によって滅ぼされ、今現在王国があった場所には、教団の総本山とも言える神王の塔が建立されている」
「成程。そういうことでしたかラインハルト様。つまり、ケイスケ王を支援する名目で、教団に奪われた聖王遺物の奪還を図るのですね」
「そうだ。エル=ファシル王国の再興という大儀、これは教団の掲げる神王と共に新たなる世界を築き上げるという教義に勝るとも劣らぬ大儀だ。
 いや、純粋に国を復興させたいという大儀の前では、偽りの神王の元世界を我が物にしようとするゲスな教義などは塵となって消える。王に協力することで、そのような大儀が得られるのだ。寧ろ礼を言いたいのはこちらの方だ。
 そして余が出した条件だが、まずは復興したエル=ファシルとの優先的な公益権。エル=ファシル自体にも貴金属などの豊富な資源もあるが、何より東方と西方の中継点であるという地理的要因が大きい。
 エル=ファシルとの交易ルートを確保することで、豊富なエル=ファシルの資源はおろか、東方世界のあらゆる物資がこのローエングラムへと運び込まれるようになるのだ。エル=ファシルとの交易における利益は計り知れぬ物になるであろうよ。
 次に、余をエル=ファシル王と同格の王として認めるという条件だが、そもそも王というのは自ら名乗り出て君臨出来るものではない。多くの民から信頼と寵愛を享受されるものこそが、晴れて王として君臨出来るだ。
 もっとも、民から信頼と寵愛を享受されたとしても、簡単には王にはなれぬ。公爵になるのとは訳が違うのだ。だからこそ、エル=ファシル王から己と同格の王と認められることが大きいのだ。
 権威者が自分と同格の権威を人に与えることを大々的に非難出来る者は、そうはいまい。誰しもが権威、権力の類は欲しがるものだからな」
「はっ。ラインハルト様でしたなら、必ずや誰からも非難されることなく王として君臨出来ることでしょう」
「それはそうと、キルヒアイス。ミスズ姫はサユリによく似ているな」
「はい。髪や眼の色は違えど、その容姿とお声はサユリ様によく似ていらっしゃいます」
(サユリは無事だろうか……? マイが側にいるのだから心配は無用だが、早く戻って来て欲しいものだ……)
 ミスズにサユリの姿を重ね合わせ、ラインハルトはサユリの無事な帰還を心から願うのだった。


…To Be Continued


※後書き

 連載開始した序盤に「アッテンボローさん出して下さい」というリクエストを受け、「ちゃんと出しますよ〜」みたいな返答したのですが、出て来るのに3年掛かってしまいましたね(苦笑)。恐らくもうこのSSを読んでいないでしょうが、Hermit氏にようやく貴方のリクエストキャラを出すことが出来ましたとご報告しておきます。
 さて、今回は久々に原作の主人公キャラ全員が顔を出しましたね。一話の中に主人公キャラ全員が出て来るということはあんまりないので。
 とりあえず今後の予定としましては、イルカ像の探索に、聖杯絡みのイベント、火炎長アウナスとの戦いなどを書きます。これらが消化し終わるのが多分35話くらいでして、その後原作にないある一大イベントを描く予定です。
 それらも終えて、50話前には神王教団の話を書き終わらせたいものですね。

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